ヘンリー2世の絵

流し読みしていたら美味しい?しんどみ溢れる文献を見付けてしまったので連続更新。
昨日からお世話になりすぎている米フォーダム大学 オンライン中世資料集”Internet Medieval Sourcebook“からです。
今回の出典は”De principis instructione(君主への訓戒)”という君主論を説く書物から。初版は1190年ころ、完全版の成立は1216〜17年頃らしいです。

そこから「ウィンチェスターの一室に描かれた絵」についてのエピソードを。

原文

But it happened that there was a chamber at Winchester beautiful with various painted figures and colours, and a certain place in it which was left clear by the royal command, where a little time after the king [Henry II] ordered an eagle to be painted, and four young ones of the eagle sitting upon it, two upon the two wings, and a third upon the middle of the body, the fourth, not less than the others, sitting upon the neck, and more keenly watching the moment to peck out the eyes of its parent. But being asked by those who were on intimate terms with him what this picture might mean, he said, “The four young ones of the eagle are my four sons, who will not cease to persecute me even unto death. The younger of them, whom I even now embrace with such tender affection, will sometime at the last insult me more grievously and more dangerously than all the others.”

日本語訳(一部意訳あり)

ウィンチェスターには、さまざまな人物画や色彩で美しく彩られた一室があった。その部屋には王命により敢えて何も描かれずに残された一画があった。しばらくして、ヘンリー2世はそこに一羽の鷲と、その体に止まる四羽の雛を描かせた。二羽は左右の翼に、一羽は胴体の中央に、そして四羽目は他の雛に引けを取らない大きさで首筋に止まり、親の目を嘴で抉り出そうとする隙を鋭い視線で狙っていた。親しい者たちから「この絵が何を意味するのか」と尋ねられると、王はこう答えた。「この四羽の雛は、私の四人の息子たちだ。私が死ぬまで彼らに苦しめられ続けるだろう。その中でも、今こうして私が深い愛情を込めて抱き締めている末の息子こそが、いつの日か他の誰よりも惨めかつ危険な形で、私を侮辱するだろうな」

いわゆる寓話ですね。

鷲:ヘンリー2世
4羽の雛:若ヘンリー・リチャード・ジェフリー・ジョン

そして雛のポジジョン的には
左右の翼の二羽:若ヘンリー・ジェフリー
胴体の中央の一羽(抱き締められている):ジョン
親鳥の目を嘴で抉り出す隙を狙う一羽:リチャード

かなと。あからさまだなリチャ。

そして最後の一文「その中でも、今こうして私が深い愛情を込めて抱き締めている末の息子こそが、いつの日か他の誰よりも惨めかつ危険な形で、私を侮辱するだろうな」はジョンに対する危惧でしょうが、初版成立年代が1190年頃・完全版成立年代が1216〜17年あたりであるのを踏まえると味わい深いものがあります。

この書物の著者である聖職者”Gerald of Wales(ウェールズのジェラルド)”はイングランドの王室書記官を務めていましたが、報酬に不満があったようで「イングランド王国への敵意」を募らせ、最終的には第一次バロン戦争でフランスがイングランドに上陸した際にはフランス支持に回っています。

要するに著者は「イングランド嫌いかつフランス支持者」といったバックグラウンド持ち。そういった著者の立場を踏まえて読んでみると、色々と別のものが見えてくるかなと。この書物は君主論……すなわち若き君主のための手引書であり、「善き君主・悪しき君主」を通じて君主として必要な徳目を教える、といった性質を持っています。なのでプランタジネット家の方々が「悪しき君主」としてとんでもなく貶されています。訳して戦慄した。

ヘンリー2世とその相続人達を「堕落した」とか「悪魔の血を引いている」とか「暴君」とか記述してます。すげえ。まあそりゃプランタジネット家嫌いだったらそう書くよな。そして妙にキレッキレの悪口。というかこの時代からこんなこと言われていたのかプランタジネット家……

そしてこんなことも。

Also Geoffrey, earl of Anjou, when seneschal of France, had carnally known queen Eleanor; of which, as it is said, he frequently forewarned his son Henry, cautioning and forbidding him in any wise to touch her, both because she was the wife of his lord, and because she had been known by his own father.
As it were to crown all these enormities, which were already too enormous, king Henry, as common report declared, dared by an adulterous intercourse to defile this so-called queen of France, and so took her away from her own husband, end actually married her himself. How then, I ask, from such an union could a fortunate race be born ?

日本語訳(一部意訳・情報補足あり)

また、アンジュー伯ジョフロワは、フランス王国の家令であった時にアリエノール王妃と肉体関係を持った。伝えられるところによると、彼は息子アンリ(ヘンリー2世)に、アリエノールが主君の妻であること、そしてアンリ自身の父親も彼女と関係を持っていたことを理由に、決して彼女に触れてはならないと繰り返し警告し、禁じていたという。すでに途方もないほどの数々の悪行に、さらに拍車をかけるかのように、広く伝えられているところによれば、ヘンリー2世はこのいわゆる「フランス王妃」を姦通によって汚すという大胆な行いに及び、彼女を夫(ルイ7世)の元から引き離し、実際に結婚してしまった。ならば、このような結婚から、どうして幸運な子孫が生まれることがあり得ようか、と私は問いたい。

けちょんけちょんすぎる。プランタジネット家憎しといえどもよくここまで書けるなぁと思う。
これ正直君主論の皮を被ったゴシップ書かな?と思ってしまった。

そしてリチャがこんなことを。

Moreover, king Richard was often accustomed to refer to this event; saying that it was no matter of wonder, if coming from such a race, sons should not cease to harass their parents, and brothers to quarrel amongst each other; for he knew that they all had come of the devil, and to the devil they would go. When, therefore, the root was in every way so corrupt, how was it possible that the branches from such a stock could be prosperous or virtuous?

日本語訳(一部意訳・情報補足あり)

さらに、リチャード王はこの出来事(ヘンリー2世の父アンジュー伯ジョフロワによる姦通・残虐な刑などなど)をしばしば引き合いに出し、そのような血筋から生まれた者たちが親を苦しめ続け、兄弟同士が争い合うのは不思議なことではない、と語っていた。なぜなら、王は彼ら全員が悪魔の血を引いており、やがて悪魔のもとへ帰っていくことを知っていたからである。それゆえ、根があらゆる点でこれほど腐敗している以上、そのような株から生えた枝が、どうして繁栄したり徳を備えたりできるというのか。

いやもうなんかすごいな。罪深き悪魔の血筋かぁ……言いそうだなぁFGOリチャなら……

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