「リチャードが弓を使っていた」という話を(英訳版ですが)文献で裏取りしてきました。
結論としては「弓ではなく攻城兵器のバリスタだった」です。恐ろしい男だリチャ。
今回お世話になったのは米国フォーダム大学のオンライン資料集こと”Internet Medieval Sourcebook”。https://sourcebooks.fordham.edu/sbook.asp
余談ですがこの”Internet Medieval Sourcebook”、ヘンリーⅡ世あたりの資料も充実してます、あとリチャ戴冠式の文献もある。
その中から”Itinerarium Peregrinorum et Gesta Regis Ricardi:The Siege and Capture of Acre, 1191″。日本語に訳すなら「巡礼者の道程とリチャード王の事蹟:1191年、アッコンの包囲と陥落」です。「巡礼者の道程とリチャード王の事蹟」という1220年代に編纂されたラテン語散文歴史物語の中から、1191年アッコン包囲戦に言及したところをピックアップされたものとなります。実際の出来事から約30年後に記された歴史物語なので「まあそういう可能性があるんだな」的な感じで受け止めて貰えたらと思います。リチャだし。
1864年に出版された本が下記リンクの底本のようです。
https://sourcebooks.web.fordham.edu/source/1191acre.asp
さらに今回はそこから「リチャードがバリスタを使っていた」くだりを抜粋。
英訳版となりますが、原文は以下の通り。
King Richard had not yet fully recovered from his illness. He was anxious to be doing things and he was free especially to attend to the capture of the city. He saw to it therefore that the city was attacked by his men so that, perchance, by divine grace the deed might be accomplished in accord with his vow. He had a latticework shed (commonly called a “cercleia”) made. It was made solid with many joints, and when it had painstakingly been put together, he ordered it to be taken to the trench outside the city walls. When his most experienced balistarii were in position, he had himself carried out on a silken litter, so that the Saracens might be awed by his presence and also so that he could encourage his men for the fight. His balista, with which he was experienced, was then put into action and many were killed by the missiles and spears which he fired. His miners also made an underground passage to the tower at which his siege engines were firing. The miners sought out the foundations of the tower and hacked out part of it. They filled up the hole with timbers which they set afire. Then the repeated hits of the stone missiles suddenly knocked the tower to bits.
――Fordham University,”Medieval Sourcebook: Itinerarium Peregrinorum et Gesta Regis Ricardi:The Siege and Capture of Acre, 1191″より引用
こちらを訳すと以下の通り(一部意訳などを施しています)。
リチャード王は病から完全には回復していなかった。だが彼は何か行動を起こしたくてたまらず、そして都市の攻略に専念できる状況にあった。そこで彼は神の恩寵により自らの誓願が果たされることを願い、部下に都市への攻撃を命じた。彼は一般的に「セルクレア」と呼ばれる格子状の覆いが付いた小屋を作らせた。これは多くの接合部があり堅牢な造りで、入念な組立作業が終わると、彼は城壁の外にある堀へ運ばせるよう命じた。熟練のバリスタ射手たちが配置につくと、王は絹の輿に乗り外へ出た。この行動の目的は自身の姿を見せることでサラセン人を威圧すると同時に、戦闘に臨む己の部下たちを鼓舞するためであった。リチャード王自身も使い慣れたバリスタを駆使し、彼が放った石や槍などによって多くの敵を殺傷した。また、王の攻城兵器(=バリスタ)が狙いを定める塔へ通じる地下道を掘り進めた。鉱夫達は塔の基礎部分を探り当て、その一部を掘り崩した。出来た穴に木材を詰め込み、火を放った。やがて投射される石が繰り返し命中したことで、塔は突然粉々に崩れ落ちた。
さすリチャポイント
・病から完全に回復していない
アッコン包囲戦の途中、リチャードとフィリップは揃って脱毛症に罹患していた1。文献では「陣屋の外に出られない状態2」と書いてあるから相当なもの。万全なコンディションじゃないのに「何か行動を起こしたくてたまらず」はリチャだ……完全に……
・絹の輿に乗って登場
翻訳エンジンによっては「絹の担架」って訳されたりするけど、王なのでやはりここは「絹の輿」だろうなぁ。そして狙いは最前線で自らの姿を見せることでのサラセン人への威圧・自軍兵士の鼓舞。やっぱわかってるやんリチャ。
・しれっと自分もバリスタを使う
「使い慣れたバリスタ(His balista, with which he was experienced)」ってしっかり言及されてる。使い慣れてるって。しかもキルレ高そう。リチャだし。
・2方面作戦
地下から別働隊に道を掘らせて、塔の基礎部分の破壊工作。すごい用意周到。攻城戦やっぱ長けてるなぁリチャ。
と、ざっくりですが抄訳&さすリチャポイントを並べました。
素直な感想が「そりゃ戦の天才って呼ばれるわ……」しか出ない。
【余談】
ちなみにフィリップはその少し前の段落で作った攻城兵器群を破壊されて
On this account the French king was so overcome with wrath and rage that, so it is said, he fell into a fit of melancholy and, in his confusion and desolation he would not even mount a horse….
日本語訳
このため、フランス王は怒りと憤りに打ちひしがれ、伝えられるところによれば、憂鬱に陥り、混乱と絶望のあまり、馬に乗ることさえ拒んだという……。
ともっと可哀想なことになっていた。そりゃさっさと帰りたくもなる。
※コメントは最大500文字、5回まで送信できます